成功するスポーツ選手の特質を心理学的な方法で求めようとする努力はかなり前から行なわれてきましたが、当時、その努力は主に知覚能力、運動能力だけに集中していました。
しかし知覚能力、運動能力だけを見た場合、同程度の能力を持った選手は大勢いて、例えば、ダリル・ストロベリーとビリー・ピーンという2人の選手をとってみても、その違いは判断できなかったに違いないのです。
そうした努力はかなり古くから始まっており、少なくとも1921年までさかのぼることができます。
同年のポピュラー・サイエンス誌に、そうした研究を特集する記事が掲載されたのです。
その表紙を飾ったのは、当時の心理研究室の実験装置を身にまとったべーブ・ルース。
胸に空気チューブを巻きつけ、そしてスイングの開始と終わりを測定する電極を取り付けたバットを振っている姿でした。
"なぜ、べーブ・ルースは最も偉大なホームランバッターなのか"という見出しで、コロンビア大学の心理学研究所でべーブ・ルースに行なわれたテストの結果が発表されました。
トップの野球選手は一般人と何が違うのか、その頭の中を覗いてみたいと思う気持ちは野球ファンの間に古くからありました。
ポピュラー・サイエンス誌のこの記事は、そうした野球ファンの願いを叶えるものだったのです。
一般人には願っても叶うことのない才能と力の秘密を誰もが知りたいと思っていたのです。
実験の結果、予想されていたことではありますが、べーブ・ルースには人並み以上の能力が備わっていることが明らかになりました。
例えば、視覚反応速度は一般人の1000分の180秒に対し160秒、聴覚反応は一般人の1000分の160秒に対し150秒、また目と手の連携は全体の上位0.2パーセントに入るという突出した結果でした。
つまり、物を一瞬見てその情報をつかむ能力に非常に優れていたということなのです。
例えば、点がいくつか描かれたカードを一瞬だけ見せて、点がいくつ描かれていたかを判断するテストでは、平均的な人が8個までしか数えることができなかったのに対し、べーブ・ルースは12個まで数えることができたのです。マシスによると、点の代わりにアルファベットが8文字描かれたカードを見せるテストでは、普通の人が4文字までしか認識できないのに対し、べーブ・ルースは6文字まで認識できました。
この記事を書いたビュー・フラートンが述べているように、なぜべーブ・ルースが人並み外れたバッティング能力を有していたのか、その秘密がこの実験で明らかになったのです。
彼の目、耳、脳、神経はすべて人並み以上の速さで機能し、また目、耳、脳、筋肉の連携も一般的な健康男性よりはるかに優れていたのです。